人的資本経営導入のリアル。6割の企業で未導入、その理由とは。

本調査のサマリ

 

  • 全体のうち6割の企業が「人的資本経営」を未導入であると回答。上場企業では6割、未上場企業では7割が未導入であり、データ収集や関係部署との調整が円滑に進まない企業も多い。
  • 未導入企業で人的資本経営が進まない理由のうち、上位3つは「人的資本経営の定義がわからない」「経営層の理解が進まない」「目標/KPI設定が難しい」である。9割の企業が「導入予定はない」と回答し、人的資本経営実践の見通しが立たない現状。
  • 導入企業のうち7割が、人的資本経営の課題として「有価証券報告書でデータ開示まで至っていない」「目標設定が難しい」を挙げている。目標設計や現状把握が曖昧なまま進行されるため、効果測定までたどり着かないという実態。
  • 未導入企業と導入企業はいずれも「現状把握とゴール設定に課題を抱えている」。

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前提:「人的資本経営」とは何か?

「人的資本経営」とは、企業ビジョンに紐づいた人材への投資である。人材を経営上の重要な資本=人的資本と捉え、その価値を最大限に引き出し、将来的な企業価値の創造・向上につなげる経営の考え方のことをいう。

人的資本経営を推進することで、社員のスキル向上による生産性アップ、社員のモチベーションアップ、継続的な企業のイノベーション、収益性向上などのメリットがもたらされ、中長期的な企業価値の向上を実現できる。

調査の背景

これまで、人材は管理の対象であり、効率的に活用・消費する「資源」と考えられてきた。しかし近年では、知識や経験、スキルなどを保有する人材は、価値が伸び縮みする「資本」であり、人材の持つ価値は企業価値や競争力に直結すると考えられるようになった。

国内動向としては、経済産業省が人的資本経営に関する報告書として、2020年9月に「人材版伊藤レポート」を公表。また、経済産業省内で実施されていた「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書に実践事例集を追加し、2022年5月に「人材版伊藤レポート2.0」を公表した。

さらに、SDGsやESG経営への関心の高まり、ISO30414の公開やコーポレートガバナンスコードの改訂などが続き、経営戦略と人材戦略の連動がこれまで以上に注目されるようになった。そのような背景から、人的資本経営の重要性や必要性は少しずつ浸透し始めている。

一方で、重要性や必要性を肌で感じつつも「人的資本経営を思うように実践できない」と課題や悩みを抱える企業は少なくない。

AKKODiSでは、人的資本経営のコンサルティングを通じ、経営戦略と連動した継続的な人材戦略をサポートしている。人的資本経営の導入企業がどのように障害を乗り越えたのか、未導入企業が感じた導入における障害などを明らかにし、人的資本経営に関する課題や悩みを抱える企業に対して解決のヒントを提示するため、定量調査を実施した。

そもそも、なぜ今「人的資本経営」が注目されるのか?

人的資本経営が注目されるようになった理由は、大きく次の4つである。

  • 1.
    SDGsやESG経営への注目度が高まった
  • 2.
    ISO30414が公開された
  • 3.
    無形資産の価値が高まった
  • 4.
    人材版伊藤レポートが発表された

SDGsやESG経営への注目度が高まった

SDGsとは、2015年9月に国連サミットで採択された持続可能な開発目標のこと。具体的には、貧困や格差などの世界を取り巻く諸問題を根本的に解決し、より良い世界をつくるために設定された世界共通の17の目標をいう。

ESG経営とは、環境・社会・企業統治を重視する経営手法のこと。

SDGsとESG経営は、いずれも持続可能性を意味するサステナビリティの考え方に含まれている。企業がサステナビリティを重視して企業価値を高めるためには、人材の価値も大切にしなければならない。

ISO30414が公開された

ISO30414とは、ISOが制定したマネジメントシステム規格であり、人的資本経営に関する情報開示のガイドラインをいう。ISO30414の公開により、世界各国の企業の人的資本経営の状況を把握できるようになった。

人的資本経営では、社内外のステークホルダーに向けて、人的資本の価値を高める施策や取り組みを開示する必要がある。

海外企業では、いち早くISO30414に基づく人的資本の情報開示が積極的に行われるようになった。この動きを受け、日本国内でもISO30414に基づく人的資本の情報開示に着手する企業が増えている。ISO30414では、次の11領域において49項目の情報開示規格を定めている。

    領域

  • コンプライアンスと倫理
  • コスト
  • ダイバーシティ(多様性)
  • リーダーシップ
  • 企業文化
  • 企業の健康・安全・福祉
  • 生産性
  • 採用・異動・離職
  • スキルと能力
  • 後継者育成計画
  • 労働力確保

2023年度から、日本の上場企業には、有価証券報告書における人的資本に関する情報開示が義務付けられたため、社内外のステークホルダーから求められる人的資本に関する情報開示のフレームの一つとして、今後ISO30414の活用が見込まれる。

無形資産の価値が高まった

企業価値は有形資産と無形資産によって決定され、これまでは有形資産が重視されていた。有形資産は財務情報、無形資産は非財務情報のこと。例えば、固定資産や流動資産は有形資産であり、知的財産や従業員の持つ技術や能力(人的資本)などは無形資産に分類される。

昨今は、グローバル化やデジタル化の影響で無形資産の価値が高まっており、人的資本は企業価値に直接影響をもたらすものと考えられるようになった。人的資本は、投資家を中心とするステークホルダーからの関心も高く、企業は人的資本への取り組みを無視できない状況となっている。

人材版伊藤レポートが発表された

経済産業省は、人的資本経営に関する報告書として「人材版伊藤レポート」を公表した。

同レポートでは、人的資本経営に関する取り組みを検討する研究会の内容がまとめられている。「人材版伊藤レポート」が発表されて以来、日本企業の人的資本経営に対する関心度が増している。

調査結果

ここからは、定量調査の結果に基づき、人的資本経営の導入・未導入の割合、未導入企業で人的資本経営の実践が進まない理由、導入企業が抱える課題や悩みなどを順に確認していく。

全体のうち6割の企業が「人的資本経営」を未導入であると回答。上場企業では6割、未上場企業では7割が未導入であり、データ収集や関係部署との調整が円滑に進まない企業も多い

今回、計69社の企業に対して調査を行った。調査対象企業69社の内訳は、上場企業が23社、未上場企業が42社(うち、上場予定が2社)、スタートアップ企業が4社である(集計1)。上場企業ではおよそ6割(56.5%)、未上場企業では7割強(73.9%)が人的資本経営を未導入と回答。また、全体では、過半数を上回る6割強(63.7%)の企業が未導入であることが明らかとなった(集計2)。

集計1

集計2-1

集計2-2

集計2-3

上場か未上場かに関わらず、人的資本経営の導入に何かしらの課題を感じ、導入に至っていないことがうかがえる。

未導入企業で人的資本経営が進まない理由のうち、上位3つは「人的資本経営の定義がわからない」「経営層の理解が進まない」「目標/KPI設定が難しい」である。9割の企業が「導入予定はない」と回答し、人的資本経営実践の見通しが立たない現状

未導入企業44社に対して、人的資本経営が導入に至らない理由や実践が進まない理由を調査したところ、「人的資本経営の定義がわからない」(14社)、「経営層の理解が進まない」(8社)、「目標/KPI設定が難しい」(5社)が、上位3つを占める結果となった(集計3)。次いで、「データ収集が出来ない」「部署調整が上手くいかない」(ともに4社)という回答も多かった。

集計3

経済産業省では、「人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義している。しかし一般的には、日本企業でこれまで実践されてきた「人を大切にする経営」と混同されたり、導入・実践によるメリットが十分に伝わらなかったりして、理解されないことも多い。また、人的資本への投資は、費用対効果が見えにくい特徴がある。例えば、人材育成や教育に予算を投入しても、どれだけ収益に還元されるかは不透明であり、還元される保証もない。

これらの理由から、担当者レベルでは人的資本経営の必要性を理解できていたとしても、導入・実践のメリットや必要性について経営層から理解が得られないことも多い。経営層を巻き込まなければ、関係部署との調整や組織内のデータ収集はできず、適切な目標設計や進行は困難である。

さらに、未導入企業44社に対して、人的資本経営を実践する見通しがあるかを調査したところ、「導入予定はない」(25社)、「導入したいが、見通しは立っていない」(15社)という結果となった(集計4)。実に、9割(90.9%)の企業で導入の予定がなく、人的資本経営の導入・実践の見通しが立っていないことが明らかになった。

集計4

導入企業のうち7割が、人的資本経営の課題として「有価証券報告書でデータ開示まで至っていない」「目標設定が難しい」を挙げている。目標設計や現状把握が曖昧なまま進行されるため、効果測定までたどり着かないという実態

続いて、導入企業25社に対して、人的資本経営を実践した上でデータを開示しているかを調査したところ、「有価証券報告書でデータ開示まで至っていない」(17社)が7割弱(68.0%)という結果となった(集計5)。

集計5

また、同25社に対して、人的資本経営の実践で苦労した点について尋ねたところ、「目標/KPI設定が難しい」(16社)が最も多い結果であり、そもそもの目標設計でつまずく企業が過半数を占めていることがわかる(集計6)。

集計6

調査項目には挙がっていないが、データ開示まで至っていない企業の一部から、次のような意見も見られた。「仮にデータ開示が行われ外部公表が進んでいたとしても、そもそもの目標設計や現状把握が曖昧なまま進行されているため、有効な効果測定はおろか、人的資本経営が社内に実効果をもたらしていると断言はできない。」

一方、データ開示を行った企業では、「競合他社との比較検証が可能となり、劣位にある開示項目で課題の認識とギャップを埋めるための対策検討をするきっかけとなった。」との意見もあった。これは、自社の現状を知り、課題を認識でき、次のアクションを明確化できるという人的資本経営導入・実践によるメリットの実感を示している。

未導入企業・導入企業はいずれも「現状把握とゴールの設定に課題を抱えている」

未導入企業の「経営層の理解が進まない」「導入の見通しは立っていない」という回答から総合的に判断すると、未導入企業の課題は、人的資本経営導入・実践の重要性が認識されていないことである。人的資本に対する社会的な関心が高まっている現代において、企業の価値と競争力を継続的に向上させるには、人的資本経営の導入・実践が必要不可欠である。また、重要性が認識されていないからこそ、自社の現状把握が不十分であり、目指すべきゴールもイメージできないという悪循環に陥っている可能性が高い。

一方で導入企業の課題は、データ開示の有無に関わらず、運用こそできているが具体的にどの施策やアクションが成果につながるかを手探りで進めている点にある。現状把握が不十分であるため、そもそも掲げた目標やKPIが誤っていれば、実りある成果は得られない。

未導入企業と導入企業の両者に共通している点は、現状把握が不十分であること。自社の現状を誤認すれば、自ずと目指すべきゴールも的外れとなってしまう。

人的資本経営のカギは“現状把握”にあり

人的資本経営を円滑に導入し、効果的に実践するためには、現状把握が必要である。裏を返せば、現状把握とゴール設定という障害さえ乗り越えてしまえば、人的資本経営の導入・実践のハードルはそこまで高くはない。

目指すゴールの設定やギャップの分析、具体的なアクションプランを精度の高いものとするために、現状把握は重要度が高く、リソースを最も多く割くべき工程である。

そして、現状把握のポイントは次の3つ。

  • 経営戦略と人材戦略の連動性を把握する
  • As is - To beギャップを把握する
  • 企業文化を把握する

【ポイント1】経営戦略と人材戦略の連動性を把握する

人的資本経営や人材戦略推進の手段として、経済産業省が提唱している「3P・5Fモデル」では、経営戦略と人材戦略の連動の重要性が示されている。経営戦略は「企業の今後に関わる重要な指標」であり、人材戦略は「経営戦略のうち人材に関わる指標をまとめたもの」である。経営戦略と人材戦略が連動していないと、中長期的な企業価値の向上にはつながらない。例えば、経営戦略として海外進出を掲げるのであれば、語学堪能な人材や海外で活躍できる人材を採用・育成することで、人材戦略と連動しているといえる。

【ポイント2】As is - To beギャップを把握する

経営戦略と人材戦略の連動性を確認するうえでは、「As is=現在の姿」と「To be=理想の姿」のギャップをできるだけ数値化し、定量的に把握することが重要である。As is - To beギャップが明らかになれば、目標に対して具体的にどのような課題があるのかを把握できる。

【ポイント3】企業文化を把握する

「人的資本経営」を推進するためには、その考え方を企業文化として定着させることも重要である。As is - To beギャップを見える化できたら、戦略を立ててギャップを埋める施策を実行し、PDCAサイクルを回しながら企業文化へと定着させていく。また、企業文化は業務のなかで徐々に形成されるため、企業価値の向上を意識して日常的に取り組みを進める必要がある。そのためには、あらかじめ、優れた文化や見直すべき文化などの自社の現状を把握することが重要。

結論・提言

本調査の結果から、未導入企業では、そもそも人的資本経営の重要性を認識できておらず、現状把握が不十分、目指すべきゴールをイメージできないなどの課題が明らかとなった。

また、導入企業では、人的資本経営の運用こそできているが目標設計やKPI設定が難航し、何が成果につながるのかわからず手探りで進めている、という課題を抱えていることがわかった。

人的資本経営は、導入と情報開示がゴールではない。また、義務化から仕方なく取り組むものでもない。最大の目的は、人材戦略と連動した経営戦略を実行しながら、人材価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値を高めることにある。

「人材」を「人財」と捉えて自社の現状を把握し、理想像とのギャップを可視化して自社のあるべき姿を再確認するとともに、強みや課題を洗い出す。これらを継続することで、将来にわたって企業価値を高め続けられるのである。

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