政府は、成長産業への人材流動の観点から「リカレント教育」「リスキリング」を推し進めています。日本の長年の課題とされる労働生産性を高めるには、人材開発への中長期的な投資が必要で、企業やビジネスパーソンを対象に継続的な支援に乗り出しています。
DXの波とともに注目度が増す「リカレント教育」。最前線の動きや政府の支援策を企業視点で解説します。
人材活用に関するお役立ち情報をお送りいたします。
Index
- 「リカレント教育」「リスキリング」の違い
- なぜ「リカレント教育」なのか
- DX推進と雇用流動性
- 技術革新や市場の急速な変化
- 課題は雇用の流動化
- 政府も推奨する最先端技術教育
- 企業の3大ニーズ(社員に学ばせたいメニュー)
- DXプログラム
- グリーン成長プログラム
- 地域活性化プログラム
- 人材育成への支援メニュー
「リカレント教育」「リスキリング」の違い
社会人の学びの手法として「リカレント教育」があります。このほか、「リスキリング」や「生涯学習」など、スキルアップを目的とした類似の学び方があります。
「リカレント教育」は、大学やビジネススクールに入り直すなど、一般的に自分の意思でスキルを身につけることを指します。一方、「リスキリング」は、次代を見据えて企業が新しいスキルを社員に体得してもらう学び方です。
入り口の意味合いは異なりますが、政府は「どちらも新たなスキルを身につけるための手法」と広くとらえ、概ね共通のものとして政策を打ち出しています。
なぜ「リカレント教育」なのか
個人を取り巻く変化
政府が「リカレント教育」に注力する背景には、100年時代と言われる日本人の平均寿命の延びと、技術革新の急速な進展があります。
かつては、学校で勉強した後に就職し、ある程度の年齢になったら退職。「生涯学習」も取り入れながら、リタイヤ後の生活を送るというスタイルでした。
現在は、会社をいったん辞めて留学したり、転職や起業で新たな仕事を始めたり、子育てをしながら働く、定年後も新たな仕事に挑戦するなど、キャリアアップ、キャリアチェンジして生活するスタイルに変わりつつあります。
企業を取り巻く変化
大きな潮流として、2020年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「2030年までに全世界10億人をリスキリングすること」が宣言され、新しい人事戦略として注目を集めました。新しく誕生したり、内容が大きく変化する職業や業務に対応できるよう、知識やスキルを習得する必要性を説いたものです。
つまり、DX(デジタル トランスフォーメーション)によって需要が拡大する職業や業務がある一方、既存の仕事が消えていくという警鐘です。
DX推進が企業の生命線になるなかで、「DX人材は外部から採用」との考え方が一般的でしたが、日本でも2021年以降のトレンドは「社内でDX人材を育成」に移行しています。
DX推進と雇用流動性
技術革新や市場の急速な変化
AI・IoTをはじめとした技術革新は、企業を取り巻く環境を大きく変えています。従来までの社員教育の仕組みやカリキュラムでは、企業の競争力を維持していくことが難しくなっていく可能性があります。
変化に対応するには、時代に適した社員の能力やスキルの習得、定期的なアップデートが不可欠です。
課題は雇用の流動化
日本型雇用の特徴として、新卒入社の企業に定年まで勤める終身雇用があります。2000年以降は、キャリアチェンジを選択する人材も増える傾向にありますが、生産性向上につながる流動性は世界に比べて圧倒的に低い状態が続いています。
Adecco Groupが実施した「仕事観に関する調査」によると、1989年(平成元年)と2018年(平成30年)の新卒社会人各1000人を対象にした調査で、安定した大手企業と成長しそうな新興企業のどちらで働きたいか聞いたところ、89年組は69.2%、18年組も69.3%が「大手企業」と回答、若者の安定志向は30年経っても変わらないことがうかがえました。
一方、転職志向については、「ずっと一つの企業で」は各67.4%、53.0%となり、18年組の転職志向が上がってはいるものの、まだ半数以上が環境の変化を避ける傾向にあることがわかりました。変化に消極的な日本ですが、外部環境がそれを許さない状況で、自社社員の新たなスキルの習得が迫られています。
政府も推奨する最先端技術教育
厚生労働省が2018年に設置した「人生100年時代構想会議」は、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計し、産学連携によるリカレント教育の充実を提言しました。
方策として、実践的で雇用対策に効果的なリカレント教育のプログラム開発を集中的に支援することを推奨。「技術者のリカレント教育」として、情報処理、バイオ、ファインケミカル、エンジニアリング、ロボットなど各分野において、企業の研究者・技術者が最新の技術のリカレント教育を受けることができる仕組みづくりを求めました。
企業の3大ニーズ(社員に学ばせたいメニュー)
経団連と大学側で組織する「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が2022年4月に公表した報告書のなかに、企業が求める人材が整理されています。3大ニーズは「DX」「グリーン成長」「地域活性化」で、「社員に学ばせたいメニュー」として公開されました。
DXプログラム
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1.デジタル技術・AI・データサイエンスに関する知識・技能の習得を目的としたもの
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2.デジタル技術・AI・データサイエンスを活用し、既存ビジネスを刷新あるいは新たなビジネスを展開するために必要な知識・技能・ノウハウの習得を目的としたもの
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3.DXがもたらす経済・社会への影響の把握を目的としたもの
グリーン成長プログラム
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1.カーボンニュートラルに貢献する技術(革新的技術)の開発・社会実装に必要な知識・技能の習得を目的としたもの
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2.環境政策・エネルギー政策への理解を深めることを目的としたもの
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3.環境・エネルギー問題に関する基礎知識(自然科学的知見)を学ぶことを目的としたもの
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4.気候変動問題がもたらす経済・社会への影響について学ぶことを目的としたもの
地域活性化プログラム
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1.当該地域の特色・地域資源・文化等について学ぶことを目的としたもの(町おこし等を含む)
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2.地域特性を活かしたビジネス・産業の動向を把握することを目的としたもの
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3.地域に新たなビジネスを興すため(ベンチャー・新事業開発)に必要な知識・技能・ノウハウの習得を目的としたもの
この3大ニーズが企業の「リカレント教育」「リスキリング」のプログラムとして選択される流れにあります。