栃木県矢板市のCIO補佐官に着任。
地域に密着しながら、社会課題を解決していく。

 

#地域活性化起業人 #CIO補佐官 #エンジニアリング以外のキャリア

AKKODiSコンサルティング(以下、AKKODiS)が2019年より取り組んでいる、『Social Innovation Partners(ソーシャル・イノベーション・パートナーズ)(以下、SIP/シップ)』プログラム。今回は、このプログラム発足当初から参画し、現在は栃木県矢板市のCIO補佐官として活動するグループマネージャーにインタビューをおこないました。同市で、民間企業からCIO補佐官を起用するのは初めてのこと。そんな快挙を成し遂げるまでの活動や、現在そして未来の取り組みまでを追っていきます。

キャリアの幅を広げる先で出会った、地方創生プロジェクト。

AKKODiSに新卒入社したのは18年前(2023年6月現在)。入社以来ずっと、クライアントのネットワーク機器検証や企画開発に携わってきました。今も入社3年目に配属になったクライアントの業務を、プロジェクトマネージャーとして請け負っています。

そして、これと並行して取り組んでいるのが栃木県矢板市の地方創生のプロジェクト。2023年度で5期目になります。この活動に参加したのは、「エンジニアリングだけでない、別のキャリアパスを描きたい」と思っていたからです。

かつて私には、圧倒的な技術力と海外勤務経験を持つ凄腕の上司がいました。そのとき、あまりの凄さに「自分がどこまでレベルを上げても、必ず上はいるんだな」と思ったんです。では、自分が目指すべきキャリアはどの方向なのだろうか……そう考えて行き着いたのが、マネジメントや企画開発、教育といった、プレイヤーに限らない別視点の関わり方でした。そこで、クライアントの課題解決や社内アカデミーの講師など、現場業務以外の仕事も担当し始めたのです。

地方創生の取り組みは、こうしてキャリアの幅を広げる中で出てきた新たな選択肢でした。普段の業務では、自分が関わっているサービスや製品のエンドユーザーの顔を直接見ることはほぼありません。しかし地方創生では、その地域の方々と直接お会いすることになります。悩みや課題を持つ人が目の前にいる状況下で、自分が培ってきた課題解決力や経験がどう活きるのかを試してみたい。そう思い、参加を決めました。

地道な関係構築から、地域活性化起業人、そしてCIO補佐官着任へ。

当時の行き先の決め方は、地域創生活動に意欲的な姿勢を示してくれた自治体の中から選択する形式。私の場合は、家族と住む東京から行き来のしやすさを考慮して栃木県矢板市を希望しました。

まず現地の実情を知るために始めたのが、矢板市の方々との関係構築です。市職員はもちろんのこと、地元で事業を手がけている方やコミュニティ拠点にいる市民の方などに、矢板市の魅力や課題についてのインタビューを実施しました。すると、「林業やりんご栽培が盛んという自負はあるものの、近くの日光や那須塩原のような知名度はなく、どこを強みとして活かしていけばよいかわからない」「市としては一部の企業だけに肩入れするわけにもいかない」といった、地方自治体だからこそのしがらみや難しさがあることも見えてきたんです。こうして少しずつでも生の声や私たちがお手伝いできることを聞き取りすることが、関係づくりの一歩になっていきました。

そんな折に、期せずして市のデジタル戦略の策定を目的とした「デジタル戦略課(現デジタル戦略推進室)」を立ち上げる話が持ち上がりました。デジタル戦略を策定していくにあたり、地方創生プロジェクトメンバーとして参画していた私たちAKKODiSに「協力してもらえないか」との声がけをいただきました。これをきっかけに矢板市と包括連携協定を締結し、私たちの持つノウハウや知見を活かして地域活性化を図る「地域活性化起業人※」に任命していただいたのです。そこからずっと、デジタル戦略策定および推進やDXのサポートをおこなっています。

さらに2022年11月には、地域活性化起業人としての活動を評価いただき、矢板市のCIO補佐官に着任しました。ありがたいことに、市長が「きっと矢板市の強い味方になってくれる」と推薦してくれたんだそうです。情報統制を担う副市長(CIO)の補佐役として、引き続き市のIT関連の活動をサポートしています。

※地域活性化起業人
地方公共団体が、三大都市圏に所在する民間企業等の社員を一定期間受け入れ、そのノウハウや知見を活かしながら地域独自の魅力や価値の向上等につながる業務に従事してもらい、地域活性化を図る取組に対し特別交付税措置が適用される総務省の制度。企業にとっても、社員の人材育成や地方圏との人的交流のみならず、企業における社会貢献を新しい形で果たすとともに、経験豊富なシニア人材への新たなライフステージの提供などにもつながる取り組み。

お悩み相談にプログラミング教室。現場からデジタル化を進めてきた。

高齢者にスマホの電源の入れ方やLINEの操作方法を教える『デジタル市民講座』の様子。

矢板市に関わるようになってからは、定期的に市職員の困りごとを聞き、解決に導くお悩み相談室も開催しています。内容はITに関わらなくてもOK。IT分野でできることがあれば助言をしますし、そうでなかったとしても詳細がわかる方への橋渡しをおこなっています。1年ちょっとの間で15部署ほど、計100人以上の方が相談に来てくれました。

こうした活動を通して感じるのは、やはり地方はまだまだアナログな部分が多いということ。私がIT業界に入った約20年前にはできるようになっていたことが、市のシステムにはまだ反映されていなかったりするんです。市民アンケートを紙からデジタルに移行するなどといった一つひとつの取り組みから、少しずつデジタル化を推進してきました。

また、市民の皆さんに向けての活動も継続的に実施しています。その一例が、ご高齢の方向けのスマホ教室。『デジタル市民講座』と題して、スマホの電源の入れ方やLINEの操作方法を教えています。去年もたくさんの方にご参加いただけて、今年は申し込みだけでも250人を超える見込み。皆さん興味は持たれているんだなという実感を得ています。スマホが使えるようになったことで「孫の顔を見ながら電話ができて嬉しい」なんて声を生で聞けるのはやはり嬉しいですよね。

さらに小学校低学年向けには、親子参加型のプログラミング教室を実施しています。文部科学省の『GIGAスクール構想※』で一人ひとりにタブレットが配られているので、その活用方法を学ぶ場として提供してきました。プログラミング学習からさらに、論理的な思考力を鍛えることも目的にしています。プログラミングで身につく能力が、他のさまざまな職種で活かせることに気づいてもらえたらいいなと思っています。

※GIGAスクール構想:2019年に開始された、全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み。「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」を意味する。

簡単にはいかない。だからこそ実直で真摯なコミュニケーションを。

地方創生でいちばん大事なのは、やはり地元の人目線に立った地道なコミュニケーション。なるべく横文字は使わず、親しみやすい存在として受け入れてもらえるように心がけています。特産品であるりんごをいただき、矢板市を訪問するたびに必ず地元の飲食店で食事をする。こうした「矢板市の一員になる」姿勢が、地域に入っていくときには大切なんです。

それでも、なかなか受け入れてもらえないこともありました。東京にある会社の社員が急に入ってくるんですから当然ですよね。ですから、私たちがサポートに入る意義や必然性、そして「矢板市のために動きたい」という想いを丁寧に何度も伝えていく活動が欠かせないのです。

さらに、同じように社内で地方創生活動をしている他地域メンバ−とも定期的に情報交換の場を設けるようにしています。ほかの行政や自治体での成功事例や取り組みで、矢板市でも活用できそうな話は持ち帰り、今後の取り組みの参考として副市長にも共有しています。事前に情報共有をすることで、新たな活動の提案も進めやすくなると考えています。こうした働きかけも、今まで関わってきたプロジェクトとは違った視点で工夫しているところですね。

地方創生で、本気で社会課題と向き合える人財になっていく。

「エンジニアリングだけでは経験できないことが体験できること」と「別の視点が持てること」が地方創生の最大の魅力。いつもの業務だけでは「スマホの使い方を教えることで目の前の人が笑顔になっていく」という体験はなかなかできません。自分たちの持つ知識やスキルがちゃんと活きて、地域の人たちの役に立っているという実感が得られるのがこの活動の良さだと思います。

そして何より、地方創生では本気で社会課題と向き合うことができます。地方自治体の仕事は、企業内の仕事では見えなかった社会課題について、深く考える力が養われる環境。役員クラスの方に近い視座で、社会全体を見据えた戦略も提案できるようになると思います。ここでの経験は、キャリアプランやライフビジョンをも変えるような大きな影響をもたらしてくれるはず。いまの職種だけの価値観しか持っていないのは、やはりもったいないと感じます。だからこそ自分のグループメンバーにも『SIP』にチャレンジしてもらっています。

また、活動を続けてきたことで、自然と市の職員の方から声がけをしてもらえたり、困ったときには相談に来てくれたりするようになりました。矢板市の中で地域活性化起業人として地盤を築けた段階だと思うので、今後は、教育現場や地元産業に向けてもデジタル化やDXの推進活動を広げていきたいと思います。そして、同様のサポートが必要な他地域にも伴走できる体制をつくっていきたいです。地方創生は1年や2年でできるものではありません。5年や10年といった長期的な目線で携わり続けたいですね。

PROFILE

秋本
Products&Consumer事業本部 キーアカウント第1事業部 ソリューションサービス第5グループ グループマネージャー

2005年新卒入社。テックコンサルタント※経験を経て、現在はグループマネージャーとしてクライアントの業務を継続中。社内の研修資料制作や講師経験の実績も持つ。2019年より、栃木県矢板市にて地域の課題解決活動に取り組み、2021年7月に同市の『地域活性化起業人』としてデジタル戦略課に配属。翌年には民間企業のデジタル専門人財としては同市初となるCIO補佐官に就任。2児の父。

※AKKODiSでは、エンジニアの呼称を『テックコンサルタント』としています。

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