
光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超え、インターネットの飛躍的な発展をもたらすIOWN構想※。その社会実装を牽引するエンジニア不足が課題となっています。新しい技術を実現するための人財をどう育成するのか。NTTコミュニケーションズ株式会社 山下達也氏と、AKKODiSコンサルティング株式会社 和田直也が語り合いました。
※IOWN構想の詳細についてはhttps://www.rd.ntt/iown/をご参照ください。
Index
エンジニアを取り巻く環境の変化
山下達也氏[以下、山下]:私がNTTに入社したのは1988年です。配属されて最初に携わったのは、UNIXを搭載したワークステーションにデジタル電話回線をつないで通信システムを作る仕事でした。そんな感じでスタートしたので、自然とインターネットに興味を持つようになりました。そのうち、社内でもインターネット環境を作ろうという話になり、さらに一般企業向けのインターネットも普及の兆しが見え始めたので、NTTグループの事業部門としてはおそらく初となるインターネット担当部門が立ち上がりました。しかしながら、インターネットに詳しいエンジニアなんてまだ多くはいない時代です。私もエンジニアとしてはまだまだ発展途上でしたし、一人ではなにもできないので、配属された若者をインターネットのエンジニアとしてみんなで育てていこうと試行錯誤しながら進めていきました。当時はサーバーもルーターも違いがない時代です。ケーブルの自作から始まり、UNIXのファイルシステムは当然として、伝送システム(Ethernet)、経路制御(IPルーティング)、名前解決(ドメインネームシステム)、アプリケーション配送の仕組み(メールシステム)など、現在はルーターやサーバーやアプライアンスで分業している機能をすべて理解した上で、インターネットシステムの設計構築運用をしていました。あの頃は、エンジニアはフルスタックが当たり前でしたね。

和田直也[以下、和田]:一人ですべてこなしていた時代ですよね。しかし、世の中の流れに沿って、エンジニアの業務はどんどん細分化され役割分担もすすみました。
山下:特にここ10年ほどは、弊社の新入社員も、AIやデータ分析、クラウドに関心を持つ人が多くなっていて、ネットワークやインターネットに興味を覚える人は非常に少なくなりました。ネットワークのことを深く知らなくても、AWS(Amazon Web Services)、Azure(Microsoft Azure)、GCP(Google Cloud Platform)などのクラウド基盤が提供する仮想ネットワークなどの機能を使いこなせれば必要十分という雰囲気を感じます。
和田:確かに、物理的なものは時代とともに徐々に減ってきましたよね。今はインフラもソフトウェアで実現する時代になってきました。私たちが思い浮かべる基盤、つまりインフラストラクチャーのことを完全に知らなくても色々なことができる便利な時代ですよね。
未来を支えるインフラエンジニアの育成
山下:ここで、日本のICT業界にとてもインパクトのある話を一つしておきますね。日本では経済産業省の主導の元、3年に1回エネルギー基本計画の見直しがあり、まさに今年2025年が第7次エネルギー基本計画策定の年なんですが、そこでは、データセンターや半導体工場の新増設によりデータ量が爆発的に増えることが予測されています。流通するデータ量が増えるということは、それを処理するための電力消費も膨大に増えることを意味しています。
和田:特に生成AIの普及によって、電力需要が爆発的に増加するという予測があります。それに伴い、発電の際に排出されるCO2量も増えていく恐れがあると思います。
山下:例えば、一つのものを物理的に運ぶのに1万のエネルギーを要していたとすると、電気で運ぶとそのエネルギーが1/100に、通信で運ぶと1/10000に削減できるという試算もあります。今は、大阪や東京などの大都市圏にデータセンターがありますが、発電所の近くにデータセンターを設置すれば、日本全体として少なくともデータセンターが生み出すデータ流通に関わる電力消費量は1/100に削減できるというわけです。

和田:発電所とデータセンター間の距離が近ければ近いほど、送電のコストダウンにつながりますよね。
山下:仰る通りです。このように、電力インフラと通信インフラを一体的に整備する構想を「ワット・ビット構想」といいます。つまり、通信や送電のインフラ再構築の重要性が再び高まっている。一方、通信インフラを管轄する総務省は、オール「光」ネットワークを、2030 年代の実現を目指すBeyond 5Gの3つの重点技術分野の一つとして位置付けていますし、日本の主な通信キャリアはみなオール「光」ネットワークの整備を進めています。KDDIはオールフォトニックネットワーク、ソフトバンクはAll Optical Network、そしてNTTはIOWN構想のなかでオールフォトニクスネットワークと呼んでいます。
和田:本来のインフラの重要性が高まっている表れですね。今は機器に触れなくても仮想インフラが作れてしまう時代ですが、今一度、物理的な光ネットワークの理解を含め原点回帰が必要かなと。
山下:そうですね。とはいえ、弊社のエンジニア全員が光ケーブルから勉強するのは専門性やモチベーションの観点からも難しいため、10人に1人は興味を持ってもらえたらと思います。そのためにも、AKKODiSのIOWN構想基礎研修をぜひ受けてほしいですね。
和田:ありがとうございます。弊社のインフラエンジニアの育成プログラムには、物理的な理解も含まれた構成になっています。基本的なインフラの理解からIOWN®の基本概念まで、全てトレーニングすることが可能です。
山下:我々がIOWN構想で申し上げているキーワードにはオール「光」ネットワークだけでなく、光電融合技術を活用した新しい「ディスアグリゲーテッドコンピューティング」もあります。これは、箱に閉じたコンピュータをネットワークでつなぐこれまでのサーバオリエンテッドな概念から、CPUやメモリなどのリソースを直接光でつなぎ、ラックやデータセンターのスケールでプール化し、必要なときに必要なリソースを自由に接続できる仕組みです。これらのリソースを光で相互につなぐことで、電気を無駄に消費せずに済みます。これを実現するためには、インフラから構築できるエンジニアがたくさん必要になってきます。さらにいえば、その人たちがセキュリティ、データ分析、そしてAIにも強くなっていただけると理想的です。こんな感じで、フルスタックエンジニアと呼べる人が増えていくと良いですよね。
和田:そういった人財育成は必要だとわかっているのに、そこまで進んでいない。なぜなのでしょう?
山下:頑張って受験勉強をして、大学で学問を修めて「AIに関わりたい」という思いを抱いて入社したエンジニアに、「今からはインフラも勉強してください」というと違和感を抱く方が多いと思います。ですから、学生時代からインフラに興味をもってもらえれば、人財育成もすんなりいくのではないかとも思います。
和田:学生の教育も重要ということですね。
山下:会社に入ってから違う方向に誘導していくのは、時間も手間もかかり、モチベーションの維持も難しい。そこで、ネットワークのことも分かっているフルスタックエンジニアを育成するようなカリキュラムを、高校や大学に組み込んでもらえたら良いと思います。そういう発想から、8年前に設立したのが「高度ITアーキテクト育成協議会(AITAC)」です。NTTコミュニケーションズも含む複数の国内IT企業が協業して、時代を支えるインフラエンジニアの育成を共同で支援しています。そこで作ったカリキュラムを使って、これまで東京大学、慶應義塾大学、九州大学などで授業を行ってきました。
和田:確かに、もっと長いスパンで考える必要がありますよね。しかし、実行するためには、教えられる教師や講師が不足しています。
山下:一朝一夕には解決できないかもしれません。仮に、日本や世界でIOWN®が社会インフラとして定着したときに、その基盤上で生活する人たちが増えます。IOWN®という言葉やイメージが一般の方々も身近に感じられるような世の中になれば、「IOWN®に関わってみたい」「IOWN®のエンジニアになりたい」と思ってくれる子どもたちが育つようになるはず。となると、やはりIOWN®を認知していく、広めていくことに力を入れていかなければと思います。
和田:大学にコンテンツを提供して学生に教えていくというアプローチはもちろん必要だと思いますが、もっと子どもの頃からIOWN®というものが身近に感じられるようになっていれば、自ずと「IOWN®のエンジニアになりたい」という人は増えていくように思います。インターネットが登場したときに、漠然と「インターネットに関わる仕事をしてみたい」と思う人財が一気に増えたのと同じような現象が、IOWN®でも起きるのではないかと想像しています。
山下:今インターネットという例を出していただいたのですが、おそらく「インターネット」と聞いて、光ファイバーとかルーターのことを思い浮かべる人はほとんどいないと思います。インターネットで使えるアプリケーションやGoogle ChromeやEdgeといったブラウザを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。それがインターネットの入り口だと思っている人は、むしろ理解している人ですよね。もっといえば、携帯電話とネットの違いすら意識していない人も多いかもしれません。
和田:携帯電話で会話できることとネットに繋がることは同じ感覚かもしれません。
山下:IOWN®は2030年の実用化を目指して研究開発を進めています。やがてオール光ネットワークをはじめとするIOWN®の普及によって、自動運転で事故を回避できるような車が普通に走る時代になる。その裏側ではIOWN®が貢献しているが、エンドユーザーは意識せずに使っているようになるのではないでしょうか。
和田:もっと物理的、直感的にわかりやすいものが出てきたら、IOWN®が一気に浸透していきそうですよね。
IOWN構想基礎研修プログラムの開発
和田:今回のIOWN構想基礎研修は、山下様の監修のもと、ブラッシュアップさせていただきました。
山下:IOWN構想基礎研修1.0はすでに完成していたので、2.0のたたき台を見せていただきました。そこで「IOWN®のAPNは…」という表記を見つけましたが、先に述べたように、オール光ネットワークは各社色々な呼び方をしていて、そのうちNTTはIOWN構想のなかでオールフォトニクスネットワークと呼んでいます。ですから、まずはオール光ネットワークとは?ということを説明してから、たとえばNTTが提唱しているIOWN®構想のAPNは。。。という順番で説明した方が受講者にとって分かりやすいのではないか、と指摘させていただきました。そうした細かいところをチェックしながら、とにかくわかりやすく誤解がないように、全編を通してアドバイスさせていただきました。

和田:山下様のご意見を反映させて、より多くの人が興味を持ってくれるような内容にアップデートしました。そもそもなぜこの研修をつくろうとしたのかというと、IOWN®自体の認知度が圧倒的に低かったからです。NTTグループ様のなかでもきちんと説明できる人が多くなく、そこまで浸透していない。だから、エンジニアだけではなくて、さまざまな方に知っていただきたいという思いがありました。そこで、インフラのエンジニアにもう一度起点を戻して、育成にどうつなげていくのかというストーリーを組み立てていきました。もちろん、その上に走るアプリケーションやサービスも全部できるエンジニアを育成するのは相当難しいことだと思います。しかし、正しく理解していくという意味においては、個々の理解が浅くとも、広範に理解したエンジニアを増やすことは、極めて大きな意義があると思っています。
山下:両方の人財が必要だと思います。フルスタックがわかるエンジニア、弊社でいう「高度ITアーキテクト」を育成するためには、まずそれを教える講師もフルスタックエンジニアであってほしい。ただし、大学で履修したからといって、全員がフルスタックエンジニアになる必要はないですよね。少しでも勉強すれば、広く浅くは知ってもらえる。そういう人財は、世の中から見れば十分知っている人だといえます。さらに、修士課程、博士課程へと進むと、高度ITアーキテクトの卵になっていくというようなイメージです。
和田:そうですね。現状はどちらの人財も少ないので、まず裾野を広げるためにも、広く浅く学んだ人財を増やすことが必要だと思います。それがないことにはフルスタックの人財も生まれません。
山下:御社の研修を受けていただき、概要を理解した人が社会に増えていくことが先決です。そのなかで、研修したうちの一人か二人は博士号を取る人が出てくるとか、良い成績を修めた人はハンズオンの研修に誘導するなど、そういったポジティブなスパイラルが生まれていくととても良いと思います。もし、研修を受けてIOWN構想が実現できれば「世の中が変わる」と思ってくれる人が少しでも増えたら、もう大成功ですよね。
和田:狙いはそこですね。
職種の枠組みを超えた変革の必要性
和田:エンジニアを増やしていく必要性はよく理解できます。それに加えて、IOWN®というものを世の中に広めていこうとしたときに、ビジネスとしていかに広げていくかという視点が必要だと思っています。その観点で、IOWN®のことがわかるビジネスパーソンと捉えるのか、IOWN®のエンジニアと捉えるのか…。割合で見るとビジネス視点をもったエンジニアは市場にはまだ少ないため、この人財ギャップをどのように捉えるべきでしょうか?
山下:非常に難しい問題ですね。例えばどんな業界でも本当に仕事ができる人は、ご自身はそんなに技術に詳しくなくても、技術に精通している人にうまくつなげられる人が多いように感じます。さらに、今後は簡単なコードを書くプログラマーは必要なくなると思います。なぜかというと、生成AIに命令すれば、正確でバグのないコードを書ける時代になったからです。それがどんどん進んでいくと、結局人間がやらなくてはいけない仕事は、システム全体を設計するアーキテクトしか残らないかもしれません。その人たちは、コンサルに近い立場なので、結果的にビジネスパーソンとしてもできる人なんだろうと思います。言い換えると、アーキテクトとゼネラリストの両方の素養を持った人が、本当にビジネスができる人だと思います。ですから、そういう人財がアーキテクトが目指すべき次のキャリアパスかもしれません。

和田:なるほど、そういうことですね。
山下:海外には、法律を修めながら数学の博士号を取る人とか、普通にいますよね。彼らにとって理系・文系という括りはないわけです。
和田:海外は文理融合、そもそも文系・理系で分かれていないですよね。日本は昔から文系・理系で分けたがる傾向がありますが、今の時代はリベラルアーツのような特定の分野ではなく、幅広く学び、物事を多角的に捉える力を養うことが必要だと感じます。
山下:新しい時代においては、エンジニアや営業もそういう固定概念を捨てた方が良いと思いますし、今後はAIを含めた最新技術を賢く使える人とそうでない人に二分されていく傾向がますます強くなるような気がしています。生成AIを使いこなせる人は、きっと営業もある程度できるし、フルスタックエンジニアの素養も、アーキテクトの素養もある。生成AIが当たり前になり、もちろんIOWN®も当たり前になった時代だと、理系・文系、営業・技術という固定観念をなくす必要があると思います。
和田:そうですね。そういった概念はなくなっていきますよね。
山下:だから、御社のIOWN構想基礎研修を学んだ後、これを「自分の興味がある業界の営業に使ってみたい」という人が出てきても良いですよね。より技術を深掘りする方向に持っていく人もいるだろうし。「よくわからないけれど、夢のある話だからあの分野に提案したらすごく面白いかも」というセールスパーソンが出てきてもいい。入り口である基礎研修ですからね。
IOWN構想の実現がもたらす未来
和田:そういった意味では、IOWN®がこれからの日本を変えていく一つの起爆剤になる可能性がありますね。
山下:しかし、これはあくまでもNTTの構想で、ともすれば夢物語ともいえます。でも、夢がなければ構想も生まれません。仮に10年後に「やっぱりダメだったね」と いわれたとしても、IOWN構想を提唱したことは無駄ではなかった、方向性としては間違っていなかったと思っています。構想というのは脈々と引き継がれていくもの。この構想が、本当に社会実装されたときに、日本の誰かが「IOWN®でノーベル賞を取りました」、日本の企業が「これで業績を上げました」など、そんな未来が描けるようになることを期待しています。
和田:そうなると日本人としては嬉しいニュースになりますよね。

山下:わかりやすくいうと、日本人がすごいと思われる象徴は、イチローや大谷翔平だと思っています。日本人が活躍すると日本が元気になる。それこそが一番尊敬される日本の国際競争力だと思うんです。ですから、このIOWN構想が実現して、日本人がその中心メンバーとして世界的に有名になるとか、素晴らしい表彰を受けるというのが、本当の意味で日本のためになる気がしています。
和田:世界から評価されるのが一番わかりやすいですね。日本だけでなく、グローバルで活躍できる人財育成をこのIOWN®のなかで実現できると非常にインパクトがあると思っています。
山下:さらに、その人は「実はAKKODiSの研修を受けたんです」となると、一番良いですよね。
和田:それが理想的ですね。今後は、研修のみならず、さまざまな場面でAKKODiSのサービスや人財も提案できるようにしていきたいと考えています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
山下:こちらこそありがとうございました。

IOWN構想におけるAKKODiSの取り組み
「IOWN Global Forum™」へ参画
次世代コミュニケーション基盤 「IOWN構想」の実現を目指す
AKKODiSは、人財の創造と輩出を担う企業としては初めてIOWN GLOBAL FORUM™に参画し、IOWN構想の実現に向け、これまでに幅広いエンジニアリング分野で人財育成を担ってきたノウハウと知見を提供してまいります。それにより、テクノロジーの研究開発と社会実装を見据えたユースケースの構築を推し進め、IOWN構想の早期実用化、サービスの普及に貢献してまいります。
新組織「IOWN推進室」の設置
IOWN構想の実現に向けて、技術革新を推進する人財育成および新たな就業機会の創出を支援するため「IOWN推進室」を新設
IOWN推進室が担う主な4つの役割
- ・技術革新を促進するエンジニアの育成
- ・新たな就業機会の創出
- ・異なる産業間の連携強化
- ・グローバルへの展開
「IOWN構想基礎研修2.0」の制作
IOWN®に関する基礎的な知識を習得することを目的としたコンテンツを制作しています
IOWN®を知る
研修カリキュラム
IOWN®が必要とされる社会的背景
- ・電力枯渇
- ・通信品質
IOWN®を構成する3要素
- ・APN [ All-Photonics Network ]
- ・光電融合 [ Photonics-Electronics Convergence ]
- ・DCI [ Data-Centric Infrastructure ]
IOWN®が創る未来
- ・スマートスタジアム
- ・遠隔医療の推進