ADASとは?自動運転との違いや機能、国内外の事例を徹底解説

公開日:2022.09.29

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ADASという技術についてご存知でしょうか。ADASとは「Advanced Driving Assistant System」の略称であり、「先進運転支援システム」と呼ばれます。

ADASは自動運転に不可欠の技術であり、安全性を確保するための多種多様な機能を実現します。現在は多くの自動車メーカーが自動運転の実現に向けて、ADAS技術の開発を進めています。

今回は、自動運転の分野で注目されつつあるADASについて、基本的な概要、代表的な機能について解説します。また、ADASの開発を担うファームウェアエンジニアの仕事についても触れるため、ADASについて詳しく知りたい人はもちろん、今後ADASに関する仕事に就きたいと考える人にもぜひ読んでいただきたい内容です。

ADASとは

ここでは、ADASについての基本的な概要に加え、自動運転との違い、市場動向について解説します。

ADASとは

ADASとは、先進運転支援システムのことであり、運転中のドライバーの安全を確保するためさまざまなサポートを行う技術です。ADASは自動車の運転に必要とされるドライバーの「認知」「判断」「操作」を支援します。

ただし、運転の主体はドライバーであり、ADASが行うのはあくまでサポートに過ぎないという点が重要です。ADASがドライバーを支援する機能は、衝突の防止、歩行者の検知、ドライバーの状態監視など多岐にわたります。また、メーカーによって実現方式や搭載機能がさまざまであることもADASの特徴といえるでしょう。

自動運転との違い

ADASは自動運転と同じ文脈で語られることの多いキーワードです。そのため、両者の違いがよくわからないという人もいるでしょう。

ADASは自動運転支援システムといわれる通り、あくまでドライバーをサポートするもので、自動運転よりもドライバーの裁量が大きいものと考えることができます。

自動運転にはレベル1から5の区分がありますが、ADASは一般的にレベル2「部分運転自動化」に該当し、レベル3以上から自動運転と呼ばれることが一般的です。

自動運転のレベル分け

レベル 名称 運転主体 走行領域
0 運転自動化なし 適用外
1 運転支援 限定的
2 部分運転自動化 限定的
3 条件付運転自動化 システム 限定的
4 高度運転自動化 システム 限定的
5 完全運転自動化 システム 限定なし

ADAS市場の今後

自動運転の高度化が進むにつれて、ADASの市場規模も拡大傾向にあります。株式会社グローバルインフォメーションの発表によると、2021年には272億ドルだった市場規模が2030年には2倍以上の749億ドルに成長すると予想されています。

  • 参照元:ADASの世界市場 (~2030年):システム (ACC・DMS・IPA・PDS・TJA・FCW・CTA・RSR・LDW・AEB・BSD)・コンポーネント (レーダー・LiDAR・超音波・カメラユニット)・車両タイプ・自動レベル・提供区分・EVタイプ・地域別 │ グローバルインフォメーション

一方でADASの製造コストの高止まり、新興国におけるインフラ整備の遅れなど、市場の成長を阻む要因も存在します。

ADASの機能

ここではADASに分類される代表的な機能について紹介します。

ADASに分類される代表的な機能

ACC Adaptive Cruise Control System 自動車に搭載したセンサーとCPUによって、アクセルとブレーキの操作を自動的に行う機能
FCW Forward Collision Warning 前方を走行する車両を認識し、ドライバーに警告を出して回避動作を促す機能
AEBS Advanced Emergency Braking System 「衝突被害軽減ブレーキ」を意味し、国道交通省が定める規格に沿った自動ブレーキ機能
NV/PD Night Vision/Pedestrian Detection 赤外線カメラを用いることで夜間でも歩行者の熱源を感知してドライバーに知らせる機能
LDW Lane Departure Warning 高速道路などを走行している際、車線から意図せずはみ出してしまうことを警告によって防ぐ機能
LKAS Lane Keeping Assist System ステアリング操作によって積極的に元の車線に戻そうとするレーンアシスト機能
TSR Traffic Sign Recognition 道路にある標識を車載カメラで認識し、必要に応じてドライバーに警告する機能
BSM Blind Spot Monitoring ドライバーの死角から走ってくる車両を、車載カメラやレーダーなどで検知する機能
RCTA Rear Cross Traffic Alert 駐車場などでバックする際、後方車両との衝突を防ぐ機能
DM Driver Monitoring ドライバーのハンドル操作などから状況を把握し、運転に支障が出る場合に警告を発する機能
AFS Adaptive Front lighting System 自動でヘッドランプの方向を調整する機能
APA Advanced Parking Assist 駐車する際にドライバーをサポートする機能

ACC(Adaptive Cruise Control System)

ACCは、自動車に搭載したセンサーとCPUによって、アクセルとブレーキの操作を自動的に行うことで運転者を支援する機能です。量産車両においてもオプションで提供されることが多く、ADASの中でも代表的な機能といえるでしょう。

ACCが持つ主な機能としては、前方を走行する車と一定の距離を保つ「追従走行」が挙げられます。追従走行は同じ速度で長時間走行することが多い高速道路で役立つ機能です。

また、近年は「全車速追従機能」という機能も出てきています。これは、前方を走行する車両が減速した場合も追従が解除されることなく、減速した速度に合わせて走行できる機能です。

このように、ACCは前方を走行する車両に有効で、ドライバーの判断を助ける便利な機能です。一方、歩行者の急な飛び出しには対応できないことに注意しましょう。

FCW(Forward Collision Warning)

FCWは「前方衝突警告」と呼ばれます。車載センサーが検知できる範囲内で前方を走行する車両を認識し、衝突する可能性が出てきた際に、ドライバーに警告を出して回避動作を促す機能です。

FCWにはミリ波センサー、ステレオカメラなどさまざまな機器が使われます。FCWもまたADASの中で比較的実現しやすく代表的な機能です。

AEBS(Advanced Emergency Braking System)

AEBSは「衝突被害軽減ブレーキ」を意味し、一般的には国道交通省が定める規格に沿った自動ブレーキのことを指します。2019年11月に、2021年11月以降に国内で販売される新車に対して自動ブレーキの搭載を義務付ける方針が政府から発表されたため、今後はAEBSを搭載した車両が増えていくでしょう。

  • 参照元:乗用車等の衝突被害軽減ブレーキに関する国際基準を導入し、新車を対象とした義務付けを行います。~道路運送車両の保安基準の細目を定める告示等の一部改正について~ │ 国土交通省

AEBSは車載センサーやカメラによって他の車両を検知し、衝突のリスクが高まるとドライバーに警告を発します。警告を発してもブレーキ操作がされない場合は自動的にブレーキが作動し、衝突を回避します。

AEBSは衝突を事前に回避するとともに、万が一事故が起こったとしても被害を最小限に抑えるための機能といえるでしょう。

NV/PD(Night Vision/Pedestrian Detection)

NV/PDは「ナイトビジョン、歩行者検知」と呼ばれ、赤外線カメラを用いることで夜間でも歩行者の熱源を感知してドライバーに知らせる機能です。

NV/PDは、前方を走行する車両のみを検知するFCWとは異なり、歩行者の検知が可能なことが大きな強みです。NV/PDを実現するための赤外線カメラは高価なため、2022年8月現在は一部の高級車やオプションでのみ提供されています。

LDW(Lane Departure Warning)

LDWは、高速道路などを走行している際、車線から意図せずはみ出してしまうことを警告によって防ぐ機能です。車載カメラで車線を認識し、車両が車線から外れていることを検知するとドライバーに警告を発するものが一般的なLDWといえるでしょう。

LDWによって発せられる警告は、警告音やホイールの振動など車種によって異なります。後述するLKASとあわせて、レーンアシストという名称で分類されるのが一般的です。

LKAS(Lane Keeping Assist System)

LKASは、先述のLDW同様、レーンアシストに分類される機能です。LDWが車線からの逸脱を警告する機能であるのに対し、LKASはステアリング操作によって積極的に元の車線に戻そうとすることが大きな違いです。一般的なLDWやLKASといったレーンアシスト機能は、時速50キロメートル以上で作動することが多いでしょう。

高速道路を長時間走行する際、疲労から無意識のうちに徐々に走行車線からずれていく経験をしたことがあるドライバーは多いのではないでしょうか。LKASは高速道路を走ることが多いドライバーにとって、強い味方といえるでしょう。

TSR(Traffic Sign Recognition)

TSRは、道路にある進入禁止や一方通行の標識を車載カメラで認識し、必要に応じてドライバーに警告する機能です。

進入禁止の標識を検知した際にディスプレイ上にメッセージを表示する、進入禁止標識を超えてしまった際に警告音を発するなど、車種によってさまざまな方法でドライバーに警告します。

TSRはドライバーが不注意で標識を見逃すことを防ぐ優れた機能ですが、全ての標識を検知できるわけではないため、TSRに過度に頼らずドライバー自身が周囲の状況に気を配ることが重要です。

BSM(Blind Spot Monitoring)

BSMは、ドライバーの死角にあたる後方から走ってくる車両を、車載カメラやレーダーなどで検知する機能です。後方から車両が接近した際には、ドアミラーに装備されたインジケーターや運転席のディスプレイ上で警告表示を行う、または警告音を発するなどの方法でドライバーに知らせます。

死角から近づいてくる車両は、ドライバーが注意を払っていても気づけない場合があります。BSMはドライバーにとって心強い機能といえます。

RCTA(Rear Cross Traffic Alert)

駐車場などでバックする際、後方車両との衝突を防ぐ機能がRCTAです。車載カメラやレーダーによって後方から近づく車両を検知し、衝突の危険性がある際にはドアミラーのインジケーターを点灯させるなどしてドライバーに警告します。

駐車場でのバック走行に苦手意識を持つドライバーにとって、RCTAは頼もしい機能となるでしょう。

DM(Driver Monitoring)

DMは、ドライバーのハンドル操作などからドライバーが置かれた状況を把握し、運転に支障が出ると判断した場合に警告を発する機能です。ドライバーをカメラで撮影し、顔の向きや目の開き具合などからドライバーが運転に支障をきたしていないかを判断します。

例えば、ハンドル操作がおぼつかず蛇行運転になっている場合は居眠り運転の危険性があるため、ディスプレイなどを使ってドライバーに警告します。また、事故の危険性が高いと判断された場合は緊急停止する場合もあります。

これまで紹介したADASの機能が他の車両や標識といった外部の状況を検知するものだったのに対し、DMはドライバーの状態を監視する点で特徴的な機能といえます。

AFS(Adaptive Front lighting System)

AFSは自動でヘッドランプの方向を調整する機能です。例えば、夜間にハイビームでライトを照らしながら運転する際、対向車が来た場合はハイビームを解除しますが、AFSが搭載された車両ではこの操作が自動で行われます。

ハイビームを解除しないまま走り続けてしまうことはありがちなミスです。夜間に運転することが多いドライバーにとって、AFSは大きな助けとなる機能でしょう。

APA(Advanced Parking Assist)

APAは駐車する際にドライバーをサポートする機能です。元々バックカメラなどで後方を確認する機能はありましたが、近年は音声によるサポートやバックの軌道予測といった機能が搭載されるなど、APAの充実が図られています。

駐車を苦手とする人は、車を購入する際にAPAを搭載したモデルを検討するとよいでしょう。

自動車メーカーの事例

ここでは代表的な自動車メーカーにおけるADASの事例について解説します。

トヨタの事例

トヨタ自動車では「トヨタセーフティセンス(TSS)」というADASを提供しています。TSSで特徴的なのは昼間でも歩行者の検知が可能な点です。

先述の通り、従来の赤外線を使った歩行者検知機能は夜間の利用に限られていました。今後はTSSによって昼間でも検知が可能となり、歩行者を巻き込んだ事故を未然に防げるケースが増えていくでしょう。

  • 参照元:トヨタの安全技術とは | トヨタ自動車WEBサイト

ホンダの事例

ホンダが提供するADASは「Honda SENSING」です。Honda SENSINGは従来の車載センサーに加え、5台のミリ波レーダーを装備することで360度の検知を実現しています。

特に、交差点の死角から入ってくる車両を検知する「前方交差車両警報」は、出会い頭の事故を防ぐ革新的な技術といえるでしょう。

  • 参照元:安全運転支援システム Honda SENSING | Honda公式サイト

テスラの事例

米国のEVメーカーであるテスラは、自社開発のADASとして「Autopilot」を展開しています。「Autopilot」は8台のカメラにより360度の視界と250メートルの距離を認識します。

Model3では衝突回避、スピードアシストといった安全を確保するための機能の他、自動車線変更、オートパーキングといった先進的な自動運転機能も利用できます。テスラでは完全な自動運転の実現に向けて「Autopilot」を継続的にアップデートし続けているのです。

  • 参照元:オートパイロット | テスラジャパン - Tesla

ADASの開発を担う仕事

ここではADASの担い手となるファームウェアエンジニアについて解説します。

ファームウェアエンジニアとは?

ファームウェアエンジニアは、ハードウェア組み込まれたソフト(ファームウェア)を開発するエンジニアです。組み込みエンジニアと呼ばれることもあります。

ファームウェアは自動車や家電、ロボットに組み込まれており、広い分野で活用されているといえるでしょう。ADASも自動車というハードウェアに組み込まれたソフトウェアです。ADASの開発を担うファームウェアエンジニアは、今後需要が高まる業種と考えられます。

ファームウェアエンジニアに求められるスキル

ファームウェアエンジニアには、ソフトウェアを開発するためのプログラミングスキルに留まらず、組み込み対象となるハードウェアについても幅広い知見が求められます。

また、技術的なスキルのみならず、他分野の専門家と協調して開発を進めていくためのコミュニケーション能力も必須です。

ファームウェアエンジニアに求められるスキル

  • 組み込み系OSの知見(TRON,T-Kernel等)
  • プログラミング言語(C言語、Java等)
  • ハードウェアに関する知見(回路、電気等)

ファームウェアエンジニアの今後

ファームウェアエンジニアは、求められるスキルが幅広く参入障壁が高いため、人手不足の状態が続いています。また、自動運転車の開発など最新技術の発展には必ずファームウェアエンジニアの力が必要になるため、今後も需要は拡大していくでしょう。

当サイトでは、これからファームウェアエンジニアを目指す方に向けた採用情報も掲載しています。

採用情報:ファームウェアエンジニア(Tech Consultant) | AKKODiS(未経験採用)別ウィンドウで開く

また、経験者採用も行っているため、今後のキャリアをご検討中の方もお気軽にご相談ください。

採用情報:ファームウェアエンジニア(Tech Consultant) | AKKODiS(キャリア採用)別ウィンドウで開く

まとめ

ADASはドライバーの運転をさまざまな面で支援するための機能です。世界中の自動車メーカーがADAS開発にしのぎを削っていることから、時間の経過に伴って高度化していくことが予想されます。

自動運転と混同されがちなADASですが、ADASが行うのはあくまでドライバーのサポートであり、ADASが搭載されていれば100%事故が防げるわけではないことに注意しましょう。

今後ADASの市場が拡大していくにつれ、ADASの開発に携わるファームウェアエンジニアに対するニーズも高まっていくと考えられます。

AKKODiSではファームエンジニアとして求められるスキルや関連する仕事の分野も紹介しています。今後のキャリアビジョンを考えるにあたり、ファームエンジニアを視野に入れている人は、関連ページを参照してください。

関連ページ:ファームウェアエンジニア(組込・制御) | AKKODiS(キャリア採用)別ウィンドウで開く

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